第二話:気づかぬ兆候。

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朝から、体が熱い。

代謝が良くなっているせいか?

・・・しかし、今日も暑い!

今日は、会社の朝礼当番だ。

朝礼は、お決まり文句をみんなで復唱し、最後に自分の一言を言わなければ

いけない。これが、かなり苦痛だ。

いつも変な緊張がある。できればなくなってほしい習慣だ。

いつもなら、通勤途中に最後の一言を考えるのだが、今日はそれをやめた。

心の底から、自信というか大丈夫という気持ちが沸いていて、結局、そのまま

朝礼の時間となった。

口から生まれてきたようなじょう舌ぶりで、自分でも驚くくらいの話ができた。

・・・気分がいい。

しかし、気分が良いのはここまで・・・今日は苦手なお得意様への同行営業だ。

お得意様も苦手だが、同行するのは部長・・・

この部長は「長い物には巻かれろ」の事なかれ主義で、厄介なことを引き受け

部下に押し付ける、誰からも嫌われる人柄だ。

会社では、強く自分の意見を言えない僕に、このお得意様とセットで部長も

付いてきたというわけだ。

営業先では、「Yes」だけの部長。

これはいつものことで、僕も聞き流していたが、なぜか朝礼の時のように言葉

が浮かぶ。

じょう舌というよりは、頭の回転が速く、機転の利く会話といったところだ。

会社の事なので、あまり詳しくは話せないが、先方も大変喜んでくれたようだ。

いつもは、嫌な仕事ばかり、割の合わない仕事ばかりを持ち帰る営業先だが、

今日は、新規プロジェクトを受注することができた。

今までで、こんなことは初めてだった。

部長との帰り道、例の喫茶店が近くにあったけれど、教えたくなかったので

じっと会話もなく駅まで歩きつづけた。

ビルのガラス扉に写る僕は、どことなくマッチョで自信があるように見えた。

ガラスの奥にはもう一人の僕が応援しているようだった。

少しだけ良いことがあった今日。

缶ビールを買い、自宅で風呂上りに一気に飲み干す。

キーーーン!

例の頭痛だ。

ビールのうまさとこめかみの痛さをかみしめながら、ふと映った僕の体をみると、

胸のあたりの筋肉が張り出していた。

すこし、ボディビルダーのようにポーズをしてみる。

とたんに、酔いがさめた。

ガラスの中の僕は、マッチョなのになぁ・・・。

朝からの火照る体を休めるように、心地よい疲れとともに眠りについた。

体の中では、徐々に変化が起きていることも知らずに・・・・。