(道にはカゲロウ・・・湿度のある、まとわりつくような暑さ)
かき氷をほおばる。
特に暑い季節、外回りの営業の合間に食べるかき氷は最高だ。
最近では、行列のできるかき氷屋も珍しくないが、いわゆる昔ながらの
レモンやイチゴといったジャリジャリとした、舌がピンクやグリーンに
染まってしまうかき氷も、なかなか旨い。
今日も朝から会社で皮肉をさんざん言われ、追い出されるように営業に
向かった。営業先でも無理難題を押し付けられ、夏の洪水のように鳴く
セミにイラつきながら、少し早めの昼食を胃袋に流し込んだ。
それでも朝からの苛立ちは治まることなく・・・
たまたま目に飛び込んできた昭和(レトロ)な喫茶店の軒先にかかる
昔ながらの「氷旗」に誘われるように、僕は店に入っていった。
「足元注意」の札に気をつけたが、何も注意することがない。
そんな些細なことでもイラつく。
クリームソーダと迷ったが、やはり夏といえば「かき氷」。
迷った挙句、メロン味を注文した。
・・・・ガリガリと手回しの機械で氷を削っている。
山になる氷を素手で押さえつけながら、みるみる氷の山は大きくなる。
そこに、最近では健康に気を配っているせいか、大丈夫なのか?という
くらいグリーンの人工的なメロンのシロップを氷のてっぺんからかける。
柄の長い小さいスプーンと一緒に僕のもとに運ばれてくる。
・・・一口。
ふわぁーっと、昔懐かしい記憶が一気によみがえる。
そういえば、昔は夏といっても30度を超えれば、これぞ「夏」という感じ
だったけれど、今では40℃にとどく勢いだ。
夏の思い出、夏祭り、文化祭・・・
いろいろ思い出しているうちに、今朝からの苛立ちはいつの間にか治まっ
ていた。
器の中のかき氷が残り1/3ほどとなったとき、営業先からの電話。
Tu,Lulululu・・・ Lulululu・・・
一気に現実に引き戻される。
残すのはもったいないから、一気に食べようとするが、スプーンが小さい!
体も口も冷たさに慣れてきたから、器をもって口をつけ、一気に丼飯(どん
ぶりめし)でも食うかのように、メロンの氷を流し込んだ。
キーーーーン!
尋常ではない、強烈なこめかみの痛さ。
これがなければ、かき氷を食べたとは言えない「かき氷・あるある」。
でも、この時ばかりは、脳みそのどこかの回路が切れたんじゃないかという
くらい痛かった。
・・・営業先に向かわなければ!
早々にレジでお金を払い、「足元注意の札」を鼻で笑いながら店を出た。
(後で知るのだが「足元注意」がお店の名前だった)
営業先に近いところで、こんな穴場があるとは・・・。
これからは、近くに来たら、ゆっくりできそうなので寄ることにしよう。
そして、僕は新しい午後を迎えたのであった。・・・そう、「新しい」・・・
しかし、この時の僕では、気が付くことができなかったのである。