誰でも最初は・・・分からないことが分からない。
ジオラマとまでは言えないけれど、トタン小屋にホーロー看板を掛けた情景を1/12スケールにして机の上に飾り、ホッとしたいという思いから、ジオラマの世界に足を踏み入れてみました。
右も左もわからないというのはこういうことを言うのだと実感したのは、言葉が分からないということでした。
こんな風にしたいとか、あんな風な雰囲気を出したいという情景は浮かぶのですが、それが、どういう技法なのかわからないので、ネットで検索しようにも、人に聞こうにも、聴き方が分かりません。
ネットで検索しては、少しずつヒントを得ることで、僕のやりたいトタン小屋のさび付いたような塗装(?)方法は、「汚し」だとか「ウェザリング」と呼ばれるものだと、ようやく知ることができました。
方法を聴いたが・・・答えはない。
僕の求めている塗装方法は「ウェザリング」という単語で、モデラーさんたちとコミュニケーションが出来るということが分かりました。それは太陽や雨にさらされ、風に吹かれて風化するといった、時間(経年劣化)を表現する技法のことでした。
僕のようなド素人は、そういうキットや塗料を買って、サッと塗りさえすれば、そうした劣化した感じを表現できるものだと思い込んでいるので、すぐにそういう商品を買おうとするわけです。
・・・当然、見つかるはずありません。「ウェザリング」は技法ですから。
もちろん「ウェザリング」に適した塗料はありますが、サッと塗れば自動的に劣化した感じを表現できるわけではありません。
”商品を商品のままに使う”生活を長く送っていると、それはそれ、これはこれといったように、その商品の機能だけで、ものを使ってしまう習慣がついてしまうようです。
そんなことを知らない僕は「錆びた感じの塗装」とネットで検索してしまうわけです。
そうすれば、その答えを出してくれる塗料が見つかると思い込んでいるからです。
師匠に会うまでは、ずっとこのように思っていました。だから、会ったら、どんな塗料を買えばいいのか聴こうとワクワクしていました。
実際にお会いして、僕は愕然としました。
「ウェザリング」に向いた塗料はあるけれど、それら商品はたくさんあり、それらを自分なりに使いこなし、自分で納得する表現を見つけていくしかないと、師匠は教えてくれたのです。
もし、僕のようにジオラマなどの塗装方法に悩み、商品だのみでその答えを探しているのなら、あなたはこのブログを見つけることができてラッキーでした。そういう商品は使いこなしてこそだということみたいです。
つまり、ウェザリングの方法は人それぞれの工夫があるので、これが正解!という答えはないのです。
では、どうやって自分のイメージを表現するのか?
いろいろ試すしかない。これが答えです。
いろいろなウェザリングのための塗料が売られていますが、それをどう使うのかは自分で工夫して、自分なりの答えを見つけるしかないのです。
頭が固くなっている僕には、違うメーカーの塗料を混ぜても危険ではないのか、洗剤のような化学反応が起きはしないか・・・という、もはや異次元の心配もありましたが、混ぜようが何をしようが、とにかくやってみることが重要で、危険なことはそうそうない!ということを師匠に教えて頂きました。
メーカーが違っても塗料なのだから、うまく色が乗るかどうかの相性があったとしても、煙が出てくるような心配はいらないのです。
くだらない心配がクリアになり、いよいよイメージを表現する段階になりました。
リアルに表現するためには、自分のイメージするものに近い写真や画像を見つけて、それに近づけていく作業を繰り返すということしかないそうです。
試し塗りをしては、工夫をして、塗料を変えたり塗る順番を変えたり、素材を変えたり・・・
無限の組み合わせを仮定しては試す・・・そうやって表現をしていくのです。
師匠の作業スペースで対談。
驚いたこと。
とてもシンプルな作業台に少し大きめの筆入れトレイに少しの道具。
撮影用の蛍光灯にスタンドライトが手元を照らす。スタンドライトの乗った台は収納になっていて、リューターや工具が少しばかり。とても作業がしやすそうでした。
座っている椅子の背面には収納ボックスが整然と並んでいて、材料や塗料など種類ごとに整理されていました。ネジといえば数ミリのものから大き目のネジ、ワッシャーやナットまでサッと取り出せるように管理されていました。
何がどこにあるのかを把握でき、すぐに取り出せるようになっていました。
整理・整頓が行き届いた作業場に感心していると、その理由を説明してくれました。
その理由は・・・
自分の納得いく塗装をしたい場合、いきなり本番塗装ということは絶対にしません。何度も似た様な素材で、いろいろな塗装パターンを実験してみて、その中から納得した方法をチョイスします。その際、いろいろな素材や塗料をすぐに取り出せるようにしておかないと、時間がもったいない。
・・・というのです。これが普通なのです。とても感心しました。
さらに、
これを試したいと思った時、塗料や素材が頭に浮かぶわけですが、それを見つけるのに時間がかかってばかりいては、創作意欲の低下にもつながる。
・・・というのです。
さらに、さらに、
一つのパーツですら試行錯誤があるわけですから、戦車などを制作しようと思えば、その素材選びや塗料選びの試行錯誤は数千回にも及びます。それを考えると、すぐに試してみたいことをすぐに試せる環境づくりは大切です。
なるほど、些細なことでも積もり積もれば大きなロスになるのですね。
なにより、「時間ロス=創作意欲が削られる」ということであれば、本末転倒ですよね。
なるほど納得です。
僕の仕事でいえば、ホームページのクリック数をいかに少なくして導線をひくのかということと同じかもしれません。
こういう収納術は大変参考になりました!
師匠はクイズ形式でカチコチ頭を柔らかくしてくれました。
これ何で出来ている?(パート1)
部屋が整理整頓されていることに感心していると、作品がディスプレイされている壁の方を見ながら作品を指差して質問してこられました。
「あれ、何を使っていると思いますか?」
どう見ても金属のようなツヤ。作品は飛行機ですから、ますますアルミ板を塗装したようにしか見えなくなってきます。しかし、実は、カッティングシートを貼っただけでした。
その理由は、塗装というのはプロでも難しく、色にむらができてしまうので、色が均一のカッティングシートを貼ることで完璧な表現ができるからです。
金属の表現は、こういう応用で出来るものだと教えて下さいました。
これ何で出来ている?(パート2)
1/6スケールのタイヤは既製品のプラモデルを改良することでは調達できない。しかし、それをどうやって表現するのか? ここが、実は楽しいところ。僕もしばらく考えたけれど、わかりませんでした。
植木を乗せてあるような横にひく「ガーデンカート」のタイヤだけを使用。しかし、タイヤの溝が表現できない。ガーデンカートのタイヤに本物の自転車のタイヤのゴムの部分を切って貼り付け、接合部分を「ウェザリング」で隠しながら泥の汚れを表現していました。
その他にも、サラダボールや石鹸置き、自転車の空気を注入する部分など、身の回りのものを使用して作品が作られていました。
モノを一つの角度からしか使用できない僕の頭が、ドンドン柔らかくなっていきました。
表現には「時間」を捉えなさい。
これには途方もなく感心しました。
途方もなく感心するという表現は正しくない日本語かもしれないけれど、どうしようもなく目に見えない時間をどこまでも追いかけていくという作業に「途方もなく」という言葉がピッタリでした。
例えば、錆びた感じの看板を作るとき、どのように水は流れ、どこでたくさん水は留まるのかを考えることで、どこが一番錆びやすいのかを推測します。看板のフチ、角、つりさげるための穴の周り・・・そういうことを考え塗料を丁寧に置いていきます。
その看板にはどのような時間が流れているのかを考え、いらない紙やテスト用の素材で、色の濃さを調整し、塗り方の確認をして、本番塗装。一筆一筆慎重に、一気にやろうとせず、筆を塗料に付け、再度、濃さを調整し、同じところに色を重ねたり、他を塗ったり・・・。
どうやったら本物なのかを追求しつくすわけです。
そして、少し物足りないかな・・・というやりすぎる前に終了させるのがコツだそうです。
実は・・・、
1枚の看板に対して、その看板が過ごしてきた時間があるところまでは、理解しているつもりでしたが、師匠の話を聞くと、それはまだまだ甘かった。僕は、その看板だけの時間しか考えていませんでした。
そうではなく、例えば、その看板を掛けるトタン小屋。
誰かが看板を掛けに来る前にトタン小屋は完成していたはずです。だから、錆びた様な風化したような雰囲気は、看板よりも古っぽくなければいけません。つまり、看板の方が汚れすぎていては、おかしいのです。
また、例えば、ボンカレーの看板が2枚あるのであれば、その看板は同時に取り付けられた可能性の方が高いので、同じような汚し方で良いのだけれど、その横にキンチョウの看板なんかを設置する場合、メーカーが違うので、設置された時期も違うわけです。
ボンカレーより古くする場合でも、トタン小屋より古くなってはいけないのです。
周りに植えてある木々も、トタン小屋がある当時からのものであれば大きく成長している方が自然ですし・・・、考えたらきりがないくらい時間を捉える作業なのです。
推理はとても楽しい作業です。
こういう時間を矛盾なくとらえて表現することができたとき、本当に昔にあったリアルな世界が再現できるのです。どれか一つでも時間の概念に矛盾があって、古すぎたり、上手に汚しすぎたりすると、その世界観は崩れてしまうのです。
とても奥が深いのです。
目に見えない風を捉えなさい。
フィギュアに厚着をさせ、服の裾に針金を仕込み、めくれているようにすれば、寒い北風を表現することができます。
風のみならず、そうした工夫をすることで、そこに季節感や空気感を表現する事ができます。
ほどほどに。調子に乗る前に止めなさい。
先ほども少し触れましたが、塗装がうまくいくと気分が乗ってきますが、やりすぎないことがコツだそうです。時間をおくと塗料がなじみ、見た感じが少し変化します。
一旦、作業を止め、翌日見たときに足りないところがあれば付け加えていくという、実は、”待つ”ということにも相当な時間がかかっています。
けれども、師匠は言います。
たったこれだけ塗るのに1日も楽しませてもらっている。
・・・ということらしいです。
戦車などは、これ一台で相当楽しませてもらった!と嬉しそうでした。
作業を止めている間は、別の作業を進めるということで、楽しさはずっと続いているのです。
こんなにも奥の深い、こんなにも楽しい世界を知ることができて感謝です!