師匠に教えを乞う機会に恵まれる
勝手に師匠とお呼びしている方にお会いすることができました。
つい先日まで「汚し塗装」「ウェザリング」という言葉すら知らないド素人の、これまた恐れを知らぬ、土足で足を踏み入れる厚かましさに興味を持っていただけたのかもしれません。
いろいろとお教えいただき、楽しい時間を共有し、自宅に戻り・・・
一息ついて、あらためて師匠の人となりをネットで検索したり、今日の話を思い返すと、恐縮するばかり。
『こんなすごい人と会っていたのか!』 ・・・これが、僕の正直な気持ち。
このブログ記事を作るにあたり、いろいろと画像もアップしたいのだけれど、ここにも師匠の教えが効いてくる。
作品というものは、僕が考えている以上に大切にしなければいけないもので、ひとたび公開されてしまえば、それがサンプル品の画像だとしても、世間には「作品」として認知されてしまう怖さがあることをお教えいただきました。
そして、先に公開されたものがオリジナルと認知され、その後に似た様なものが公開されれば、それは「コピー」となる恐ろしさも教えて頂きました。
これは、僕のこれから手掛けようとする作品に対しての配慮をすればこそ、遠回しにそのことをご教授いただけたのではないかと、時間が経つにつれ僕の頭は理解し始めました。
この素晴らしい時間を画像なしで説明するのは、僕の言葉では表現しきれず、歯がゆいばかりですが、そうした画像が無くても説明ができ、一番、感心したことを以下に記載します。
これは、「汚し塗装」「ウェザリング」においてはとても重要だと思います。
何を今更・・・そんなお声もあると思いますが、なにせ僕はド素人ですので、この教えは本当に忘れてはいけないことだと、健忘録を兼ねてこのブログに記載しました。
この教えにより、作る側の立場のみならず、作品を見る側の立場としても僕自身の人間の深みが増したと自負しています。
時間、時間、時間。すべての時間を捉え、理解する。
この教えは強烈に途方もなく感心しました。途方もなく感心するという表現は正しくない日本語かもしれないけれど、目で見ることができない経過中の時間をどこまでも追いかけていくという作業に「途方もなく」という言葉がピッタリマッチします。
錆びた看板の再現
例えば、錆びた感じの看板を作るとき、ザッとこのようなことを考えます。
- どのように雨水は流れるのか
- その水はどこに多く留まるのか
雨水が速く流れる場所といつまでも渇かない場所を知ることで、どこが一番錆びやすいのかを推測できます。
看板のフチ、角、つりさげるための穴の周り・・・そんなことが分かってきます。
そうやってその看板にはどのような時間が流れているのかを考えたら、いろいろな素材にテスト塗りをしていきます。紙やプラスチック。紙といっても光沢のあるもの無いもの、プラスチック素材にしても裏と表で感触が違えば、その両方にテスト塗りをします。
その素材一つ一つに対して色の濃さを調整し、塗料を筆でサッと塗るのか、ポンポンと置いていくのかなどを確認し、自分の納得のいきそうな方法をチョイスして本番塗装となります。
足りないくらいがちょうどいい
本番塗装は一筆一筆慎重に塗り進めていきます。一気にやろうとせず、塗料をこまめに筆につけ、その都度、濃さを調整し、塗り進めます。
最初に考えた、雨水が乾きにくいところは、当然、錆も激しいので少し色も濃く塗ります。塗料で濃さを調整するのではなく、何度か同じところを重ね塗りすることで表現します。
常に塗り方を頭で考えて、どうやったら本物と同じ時間を表現できるのかを追求しつくすわけです。
そして、少し物足りないかな・・・というやりすぎる前に終了させるのがコツのようです。
ここにも時間が!
実は、1枚の看板に対して、その看板が経てきた時間があるというところまでは、理解しているつもりでした。しかし、甘かった。
例えば、古びた看板を取り付けるトタン小屋。
田舎に行くとまだ残っているトタン小屋。
そんなトタン小屋には、昔懐かしい「キンチョール」や「ボンカレー」といったホーロー看板が取り付けられています。
当然ですが、ここにも実は時間が流れています。
トタン小屋があったからこそ、誰かがそこにホーロー看板を取り付けに来たわけです。つまり、古さを出すときは、ホーロー看板よりトタン小屋の方が古く見せなければいけないのです。
例えば、ホーロー看板同士。
もし、トタン小屋に「ボンカレー」の看板を2枚取り付ける場合、当時のメーカー担当は2度手間を避け、2枚同時にトタン小屋に取り付けたはずです。
だからこの2枚の「ボンカレー」のホーロー看板は、同じような錆びれ方でなければいけません。もちろん、トタン小屋の屋根の位置を考慮に入れ、雨をしのげる場所とそうでない場所の2か所に設置するのであれば、その差を出した錆びれ方を表現しなければいけません。
また、「ボンカレー」のほかに「キンチョール」のホーロー看板がある場合、当然、「キンチョール」もトタン小屋よりも錆びれてはいけないのですが、メーカーが一緒に取り付けにきたわけではないので、「ボンカレー」と同じ錆びれ方ではいけません。
もし、「ボンカレー」のメーカー担当がホーロー看板を取り付けた後にキンチョールのメーカー担当が「キンチョール」のホーロー看板を取り付けたのだとすれば、一番新しく見えるのは「キンチョール」のホーロー看板となります。
例えば、周りの木々。
周りに植えてある木々も、トタン小屋がある当時からのものであれば、大きく成長している方が自然です。
まとめ
ウェザリングは、考えたらきりがないくらい時間を捉える力が必要な作業です。
ジオラマのように複数のものが一つとなった作品は、矛盾の無い時間経過を底に表現しなければ、その世界観が崩れてしまいます。
緻密に見えない経過してきた時間を頭の中で追いかけて表現していく。途方もない作業。
しかし、それらを考えて過ごす自分の時間はとても楽しい時間です。
そして、塗装方法にはルールがない。素材にもルールがない。いかに本物を表現するか?ただ、これだけを追求するために試行錯誤する世界です。その作品にもまた作者の「時間」が流れているのです。
こういうことを知ってしまうと、自分が人の作品を見る時、その作品を作っている最中の作者の時間を見ることができます。そして、感動する事ができます。
今回の教えを乞う機会は、素晴らしい刺激とともに、モノを多方面から見る目を教えてもらったような気がします。
こういう見る目は、仕事や生活シーンでもきっと役立つはずです。いろいろな時間を見ることができれば、相手の気持ちを理解することはたやすく、相手に思いやりを持てるはずです。
師匠に感謝。