第一話:選ばれし者

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(道にはカゲロウ・・・湿度のある、まとわりつくような暑さ)

かき氷をほおばる。

特に暑い季節、外回りの営業の合間に食べるかき氷は最高だ。

最近では、行列のできるかき氷屋も珍しくないが、いわゆる昔ながらの

レモンやイチゴといったジャリジャリとした、舌がピンクやグリーンに

染まってしまうかき氷も、なかなか旨い。

今日も朝から会社で皮肉をさんざん言われ、追い出されるように営業に

向かった。営業先でも無理難題を押し付けられ、夏の洪水のように鳴く

セミにイラつきながら、少し早めの昼食を胃袋に流し込んだ。

それでも朝からの苛立ちは治まることなく・・・

たまたま目に飛び込んできた昭和(レトロ)な喫茶店の軒先にかかる

昔ながらの「氷旗」に誘われるように、僕は店に入っていった。

「足元注意」の札に気をつけたが、何も注意することがない。

そんな些細なことでもイラつく。

クリームソーダと迷ったが、やはり夏といえば「かき氷」。

迷った挙句、メロン味を注文した。

・・・・ガリガリと手回しの機械で氷を削っている。

山になる氷を素手で押さえつけながら、みるみる氷の山は大きくなる。

そこに、最近では健康に気を配っているせいか、大丈夫なのか?という

くらいグリーンの人工的なメロンのシロップを氷のてっぺんからかける。

柄の長い小さいスプーンと一緒に僕のもとに運ばれてくる。

・・・一口。

ふわぁーっと、昔懐かしい記憶が一気によみがえる。

そういえば、昔は夏といっても30度を超えれば、これぞ「夏」という感じ

だったけれど、今では40℃にとどく勢いだ。

夏の思い出、夏祭り、文化祭・・・

いろいろ思い出しているうちに、今朝からの苛立ちはいつの間にか治まっ

ていた。

器の中のかき氷が残り1/3ほどとなったとき、営業先からの電話。

Tu,Lulululu・・・ Lulululu・・・

一気に現実に引き戻される。

残すのはもったいないから、一気に食べようとするが、スプーンが小さい!

体も口も冷たさに慣れてきたから、器をもって口をつけ、一気に丼飯(どん

ぶりめし)でも食うかのように、メロンの氷を流し込んだ。

キーーーーン!

尋常ではない、強烈なこめかみの痛さ。

これがなければ、かき氷を食べたとは言えない「かき氷・あるある」。

でも、この時ばかりは、脳みそのどこかの回路が切れたんじゃないかという

くらい痛かった。

・・・営業先に向かわなければ!

早々にレジでお金を払い、「足元注意の札」を鼻で笑いながら店を出た。

(後で知るのだが足元注意」がお店の名前だった)

営業先に近いところで、こんな穴場があるとは・・・。

これからは、近くに来たら、ゆっくりできそうなので寄ることにしよう。

そして、僕は新しい午後を迎えたのであった。・・・そう、「新しい」・・・

しかし、この時の僕では、気が付くことができなかったのである。