懐かしさの空気感
香り
こう・・・、なんだろう・・・。
冬から春にかけて、一瞬、春を感じる日差しと暖かい光。
ほとんど無風で、秋口に枯れてしまった枯れ残りの草にそうした柔らかくて暖かい光が当たり、陽にあたる枯れた草から漂う懐かしい香り。
乾草のように上品でもないけれど、どこか「田舎」を一瞬で思い出させてくれる香り。
小屋の中は、風雨にさらされ中にまで滲み出た錆び。
むき出した木の骨組みにたまった埃がこびりつき、何百人と腰かけた長椅子の擦れたベンチ。
座ってバスを待っている時、暇つぶしに削られた地面の土・・・。
そんなものが入り混じった懐かしい空気と陽にあたった外の枯草の香りとが混ざり合う。
見て香りを思い出し、記憶をよみがえらせる
・・・そんな香りを想像する。
ある人は青春を思い出し、田舎を思い出し、出会いや別れ、告白を思い出す。
苦しいような、微笑ましいような、切ないような、力がみなぎるような・・・
そんな、記憶を思い出すキッカケを再現できたらいいなと思い、作りました。
待合小屋の制作過程
なにより、私自身が、これを机の上において、そうした気持ちと記憶を甦らせ、いつでも癒されたいがために、作りはじめたものです。
何分、これがジオラマ制作の第一号。
右も左もわからず、いろいろな人に聞きながら、ネットで調べながら、制作しました。
制作中はとても楽しく、こんなものなのに多くの楽しい時間を過ごさせてもらいました。
このジオラマには、現在の私の時間も流し込まれていますが、そうした時間の向こうに、先ほどのような、それぞれが、それぞれに感じる「過去の時間」があると思います。
そんな「郷愁」を思い出すキッカケとなれば幸いです。
トタンの波型と風合いをどうするのか
1/12スケールで作ろうと思いますが、トタンもそのようにしたいと考えました。そうなると、トタンの波型もどれくらいのピッチで波打たせるのかが重要になってきます。
けれども、どのように工夫してよいのかわからず、試行錯誤して、妥協してようやくトタンを再現させるところまでたどり着きました。約1か月悩んだり、道具を作ったりしていたかと思います。
トタンの色についても、自分の記憶と理想に近い色を選び、試し塗りをしたあとウェザリングを施し、どんな風合いになるのかを試行錯誤して、方向性が決まりました。
試し塗り通りの風合いで一枚一枚塗り、骨組みにトタンを重ね合わせ、ミニ釘で打ち付けてみたのが下の写真です。
骨組みとトタンの貼り合わせ
待合小屋はコの字型の小屋です。左右面と背面のコの字に屋根が乗ったものをイメージしています。まずは、コの字の他の面を仕上げたいと思います。
骨組みは、組む前にウェザリングで風合いを出し、汚しを木に染み込ませてみました。
全体を見ながらウェザリングをしていくので、他の面はまだあまり汚しは入っていません。
しっかりコの字をつくったら、埃がたまりそうなところや雨漏りで劣化が進みそうなところを想像して、どんどん汚していきます。全体を見ながら、内側も汚さないといけません。
そうしたところは、完成してからバランスを調整しながら、整えていきます。
木と木の接合部分はきっと汚れると思い、入念に汚します。
全ての接合部分が同じように汚れるわけではないので、そういう経年劣化の時間を想像して汚すのですが、これが実に楽しいです。
蝶番(ちょうつがい)の釘の部分の汚れはサビに近い色で汚し、木の汚しは別の色で汚すといった工夫をしたので、とてつもなく時間がかかります。
トタンを貼り合わせる
骨組みにトタンを貼り合わせるのは、よりリアルさを出すために本当の釘を使いました。
トタンに極細のドリルで先穴を開けて、1本1本釘を打っていきます。
釘は途中から切断をして、突き抜けない長さに調整してから打ち込んでいきます。
重なり合うトタン部分と木との接合部分には接着剤を使っています。
手が痛くなるほど、下穴を開けて、釘を切って、釘を打ち付けて・・・を繰り返しました。
待合小屋のベンチを作る
小さく板を切り繋げました。実際に座るベンチを想像し、これも1/12サイズに縮小しました。
そして、よく座られる部分とそうでない部分、埃のたまる部分を想像してウェザリングをしておきます。全体が組みあがったら、調整しながらさらに汚していきます。
少し遊んでみる
屋根を作り、屋根を乗せる前に少し遊んでみました。
何か、良い雰囲気を醸し出しています。
この時点で、私はもう癒されています。
田舎には、こういう雰囲気の場所がたくさんありました。
屋根を作る
屋根を乗せるための骨組みを作ります。
この面は屋根が乗るので、経年劣化は進みにくいと思い、あまり汚していません。
屋根の骨組みを作ります。
隠れてしまう部分や外気にさらされる部分を考えて、汚す部分や汚さない部分を塗り分けていきます。また、釘の錆から広がる汚れと、埃と雨の汚れの塗り分けもして、ウェザリングを複雑にしていきます。
待合小屋に屋根を乗せてみます。
屋根の骨組みにトタンを貼り合わせていきます。
釘打ちまで終えたら、色の違うパーツを乗せて、より屋根らしくします。
現状の待合小屋の風合いとバランスを見て屋根をウェザリングします。
きっと、屋根の方が劣化が激しいはずです。大胆に汚してみました。屋根の先端は錆びやすいと思うので派手に汚しました。もうトタンがボロボロです。
待合小屋の雰囲気をアップさせていく
レトロなホーロー看板を1/12スケールにして作りました。
その看板を取り付けていきます。看板は全体的なバランスを見ながらウェザリングをしたいと思いますので、まだ汚しは入れていません。
待合小屋の背面は電車か大きな道路があり、そこに向けての広告をしようと看板がたくさん付いています。
左右の面は、ローカル道路の上下線に向けて広告しています。ローカルなバス道路なので交通量は少なく、看板は少なめです。
待合小屋のなかは電車の時刻表があり、この待合小屋からバスに乗る人のサポートをしています。地元企業のチラシや看板が貼られていて、年期を感じさせてくれます。
これは様子を見ながら、もう少し手を加えようと思います。
屋根を乗せてバランスを見ながら、全体を汚していきます。
ホーロー看板は、同時期に取り付けられたわけではないと思いますので、綺麗な看板もあれば汚れが進んだ看板もあります。それを表現していきます。
ちなみに、汚す前と後の比較です。
<汚す前>
<汚した後>
そうやって、待合小屋の歴史・・・雨風を耐えてきた歴史、利用した人たちの行動の歴史、看板を取り付けにきたメーカーの営業マンの行動の歴史を想像しながら汚した結果が以下の通りです。
『少し足りないかな?』というくらいで”ウェザリングをやめる”というのがポイントだと教わり、この辺で汚しは一旦やめてみることにします。汚しは、少し時間が経つと素材に浸み込み馴染んでいくようです。
それを見守りながら、少しずつ手を加えていこうと思います。待合小屋の中も映画のポスターやチラシを貼ろうかと考えていますが、これももう少し空想を膨らませてからにしようと思います。
完成
待合小屋の中にピッタリなアイテムや置く場所のイメージが沸き、完成したら報告します。
今は、この時点での公開となります。